こころ動かす風景。信州・安曇野、撮って書き
あづログ!


工房そだち
- セキレイくん、巣立つ -


春になると。

工房の軒下に、すき間に、鳥が巣をつくる。

たいていが、セキレイのようだ。

その人口(?)は、年々、増加しているようだ。


ことしは、とりわけ多くて。
そこここで、ヒナのピーピー鳴く声が。

木工機械の爆音は大丈夫かと、心配になるけれど。
かまっちゃられない。
鳥たちも、あまり気にしないようだ。

たぶん、人がいたほうが、安全なんだろう。
たとえば。ツバメが、人里に営巣するのは、
外敵が少ないから、らしいから。
つまり、
人口増加は、工房の発展とともにある、ようだ。


そして、梅雨前になると。
巣立ちが始まる。

ピーピーの声も、しだいに収束に向かう。
…のだが……。

ことしは、様相が違って。

巣立つの幼鳥のなかに、
「工房のなか」へ巣立つ子が、何羽かいるのだ。

どこから、中に入ってくるのか……ナゾだ。


ともかく。
工房のなかを飛び回る、幼いセキレイ。
ほのぼのとして、いい、のだけれど…。

もちろん、このままでは、イケナイ。
巣立ってくれなきゃ。

工房の窓を開けて、いつでも出られるようにする。

が、なぜか、出ていかないのだ。
そんなに、居心地が良い場所でもなかろうに。
ガンガン音はするし、木くずも舞っている。


巣立ちを促してやらねば。
親鳥の心境である。

しかたなく。追いかけまわす。
ちなみに、ウチの工房は広い。
リアルに、鬼ごっこ状態になる。


しばらく、追いかけまわせば、
ほどなく(正式に)巣立ってくれる。

のだが……。
つい先日の、セキレイくんは、
追いかけても。
追いかけても、窓から出てくれないのだ。

そのうち。
セキレイくんは、羽ばたきが弱くなり、
ついに、力つきてしまった。



不安げに、わたしを見つめる、セキレイくんのつぶらな瞳。

「だいじょうぶ。大丈夫だからね」

そっと、手を差し出して……。
つかまえる、じゃなくて、保護する。


手のなかで、小刻みに震える、セキレイくん。
ほんのり、あたたかい、セキレイくん。


「さあ、行くんだよ」


セキレイくんをホールドした手を、窓の外に出し、手を広げる。

セキレイくんは、
ぐん!と、力いっぱい、はばたいて、
安曇野の大空に向けて、巣立っていった。


手には、セキレイくんの、あたたかみだけが残った。


12/06/12 azulog-014